シンガポールに進出して四十三年となる伊勢丹は現在彼の地で五店舗展開しているが、ここにきて異変が起きている。伊勢丹シンガポールの利益は二〇一一年度の一千二百万シンガポールドル(約十億円)から下落に歯止めがかからず、ついに一四年度は三百十万ドルの赤字となった。昨年、旗艦店スコッツ店を改修してテコ入れした結果がこれである。
そもそも旗艦店の売り上げは改修前に達していない。赤字転落の原因について現地法人は「賃貸料高騰」「景気要因」に加え「ファストファッションの攻勢などによる競争激化」と分析している。通貨高と観光客の減少も追い打ちをかけた。
だが、同国小売業全体でみると前年比はプラスの状況。消費者の百貨店離れが進んだ一方で、ネット販売の台頭が著しい。店頭でスマホを使って価格をチェックするなど消費スタイルは変化している。シンガポールの小売業は、小売面積あたりの販売員数が香港と比較しても多すぎるとの指摘もあり、「担当者がブランドごとという販売モデルの限界がきているのでは」との見方も強い。
かつては三越、大丸、西友、そごう、東急、名鉄、パルコも進出していたが、いまでは伊勢丹と髙島屋を残すのみ。「日本の百貨店の虎の子」というシンガポールの枕詞はいまや死語になった。